「美術館で大航海! 〜コレクションをたどって世界一周〜」会場風景
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来年2026年に開館30周年を迎えるアサヒグループ大山崎山荘美術館で、「大航海」をテーマにコレクションを巡る「美術館で大航海! 〜コレクションをたどって世界一周〜」展が開催されている。会期は12月7日まで。(※作品はすべてアサヒグループ大山崎山荘美術館蔵)
「まだ公開したことがない作品もあるため、30周年へ向けて改めてコレクション展を行うことにしました」と語るのは、企画を担当した野崎芙美子学芸員。107件に及ぶ展示作品のうち、初公開のものが17件を数えるという。公立美術館のように明確な方針に従って作品収集が行われたわけではなく、1000件を超えるという作品数を誇るコレクションを紹介するために設定されたテーマが、「大航海」だ。展示を地域や国別にグルーピングし、地図を辿るように展示を順に追っていく構成になっている。
展示は、イギリスからスタートする。イギリスから来日し、職人による日常の生活道具に見る「手仕事の美」を説く民藝運動に関わったバーナード・リーチの作品や、リーチがその技術を再発見し、影響を受けたという18世紀のイギリスの陶器などが展示されている。展示構成について、野崎学芸員は続ける。


「まず、この大山崎山荘を100年ほど昔に建てた実業家の加賀正太郎は、イギリスに遊学経験があり、その経験からこの建物をチューダーゴシック様式の要素を取り入れて建てました。そして、この建物の保存再生と活用を目指して、アサヒグループが購入して1996年に美術館として開館したのですが、グループの前身である朝日麦酒株式会社(現アサヒグループホールディングス株式会社)初代社長の山本爲三郎が民藝運動を支援していたこともあり、当館では、民藝に関わる作品を多く所蔵しています。そこで、最初の展示室のテーマをイギリスにしました」

展示は、大山崎山荘着工から100年を経た2012年に建てられた安藤忠雄設計の新棟「夢の箱」(山手館)へと続く。イサム・ノグチやサム・フランシスの作品が並ぶ「アメリカ」を経て、マルク・シャガールやワシリー・カンディンスキーを含む「東欧」、パブロ・ピカソやジョアン・ミロの「スペイン」といった錚々たるコレクションが並び、「イタリア・スイス」「ドイツ・オランダ」へ。


「イタリア・スイス」のパートに展示されているポール・シニャックの作品《ヴェネツィア》は、船旅好きだった作家が1904年に初めて訪れた水の都を描いた作品。色彩理論と点描画法を取り入れた新印象派の様式で制作していたシニャックが、点描から展開するかたちで方形の筆致を並べて明るい水面とヨット、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会を描いた。
そして「ドイツ・オランダ」のコーナーには、アサヒグループらしくドイツで18世紀から19世紀にかけて制作されたビールマグなどが並ぶ。民藝の数々に絵画や彫刻などの美術作品、そして世界各地の工芸作品まで、そのコレクションの多彩さがすでにここまでの展示からも伝わってくる。




「夢の箱」(山手館)と同じく、安藤忠雄の設計による「地中の宝石箱」(地中館)に移動する。階段を下り、展示室に入ると、フランスのベルナール・ビュフェやモーリス・ユトリロの作品とともに、クロード・モネによる3点の大作が出迎えてくれる。


再び本館に戻ると、大航海の旅は中近東へと続く。シリアやペルシアなどの陶磁器とあわせて、パルミラ遺跡で発掘された《パルミラ饗宴図浮彫》が並び、建物のクラシックな雰囲気と展示内容とが見事な融合を見せる。



シリア砂漠の中央に位置する都市パルミラは、1〜3世紀にヨーロッパと中国を結ぶ東西交易路の中継点として栄えた。石棺を飾る彫刻として作られ、家族の宴を描写した 《パルミラ饗宴図浮彫》では、妻と思しき女性以外の顔が失われているが、おそらく後年この土地にやってきたイスラム教を信じる人々が、偶像を否定するために破壊したと考えられている。顔の描写には紀元前のギリシャなど西洋風彫刻からの、衣のひだの表現には、同時代のガンダーラ美術からの影響が見てとれる。陸路ではあるが、展覧会のテーマである「旅」の要素を強く感じさせる作品だ。
隣の山本記念展示室に移動すると、暖炉のある部屋のなかに朝鮮と中国の古陶磁の数々が並ぶ。


そして、2階の展示室を彩るのは日本各地の民藝作品。



野崎学芸員は、コレクションを改めて総ざらいしたことで得た気づきについて、次のように説明する。
「民藝に関わるものや西洋美術の名品が当館のコレクションを特徴づけていることは把握していましたが、この機会に総ざらいしたことで、中近東やイタリア、東欧などの古陶磁も多いことがわかりました。また、手前味噌ではありますが、1点ずつの作品が審美的に見ても質の高いものがとても多い。絵画、彫刻、陶磁などジャンルも豊かですし、建物も魅力的なので、作品と展示環境をあわせて楽しんでいただけるはずだと考えています」
元々邸宅であったこのアサヒグループ大山崎山荘美術館で展覧会を鑑賞すると、庶民の暮らしと比べるとだいぶ豪華ではあるが、生活のなかにアートを取り入れるとどのような環境が生まれるのかを想像することもできるだろう。チューダーゴシック様式の建物に足を踏み入れ、アートや工芸を通して時空を超えた旅を味わってみてはいかがだろうか。