公開日:2025年12月24日

【2025年ベスト展覧会】小川敦生(美術ジャーナリスト)が選ぶ3展 |年末特集「2025年回顧+2026年展望」

年末特別企画として「Tokyo Art Beat」は、批評家やキュレーター、研究者、アート好きで知られる有識者の方々に、2025年にもっとも印象に残った展覧会を3つ挙げてもらった。選んだ理由や今年注目したアート界の出来事についてのコメントと併せてお届する。(展覧会の順位はなし)

「没後20年 東野芳明と戦後美術」(富山県美術館)会場風景

小川敦生が選ぶ「ベスト展覧会」

(A)「没後20年 東野芳明と戦後美術」富山県美術館

(B)
「〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩 1890-1918」京都国立近代美術館

(C)「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」東京国立近代美術館

美術評論家の仕事に光を当てたいぶし銀のような企画展が、富山県美術館で開かれた。「没後20年 東野芳明と戦後美術」だ。東野が評論家としての活動を始めた20世紀半ば頃の日本には美術館自体がほとんどなく、とくに現代美術をどう評価し、どう広めるかについては暗中模索の時期だったと推察される。そのなかで東野は、ジャスパー・ジョーンズ、クリスト、ウォーホル、デュシャン、荒川修作、草間彌生など日本では無名だった先鋭的な美術家をギャラリー等の展覧会や書籍で積極的に紹介し、現代美術の展開に寄与したことが、本展を見てよくわかった。では、美術館や芸術祭が多数存在するなかでSNSや生成AIがメディアのあり方を変容させつつあるいま、評論家たちはどんな役割を果たしうるのか。暗にそんな問いをも投げかけているのかもしれない。

「没後20年 東野芳明と戦後美術」(富山県美術館)会場風景

京都国立近代美術館の「若きポーランド」は、国家が消滅した時期を持つなど複雑な歴史を有するポーランドのアイデンティティをクローズアップ。民族や国家の存在について深く考えさせられた。ジャポニスムの影響を多数の作品で実証した点も興味深かった。

「〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩 1890-1918」(京都国立近代美術館)会場風景 撮影:河田憲政

東京国立近代美術館の「記録をひらく 記憶をつむぐ」は、第二次大戦の「作戦記録画」を多数収蔵する同館ならではの企画。戦前の旧満州(中国東北部)を描いた絵画など、戦争に至る日本の道程を検証した点や、絵画が戦争のためにどう使われたかを検証していたことに意義深さを感じた。

「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」(東京国立近代美術館)会場風景 撮影:編集部

年末特集「2025年回顧+2026年展望」は随時更新。

「2025年ベスト展覧会」
▶︎五十嵐太郎
▶︎
平芳裕子
▶︎和田彩花
▶︎能勢陽子
▶︎鷲田めるろ
▶︎鈴木萌夏
▶︎大槻晃実
▶︎小川敦生
▶︎山本浩貴
▶︎倉田佳子
▶︎小川希
▶︎番外編:Tokyo Art Beat編集部

小川敦生

小川敦生

おがわ・あつお 美術ジャーナリスト、多摩美術大学芸術学科教授。『日経アート』誌編集長、日経新聞記者などを経て現職。著書に『美術の経済』。ラクガキスト、日曜ヴァイオリニストとしても活動中。