「ロスコ・ルーム」デザイン構想 © 1998 Kate Rothko Prizel& Christopher Rothko / ARS, New York /JASPAR, Tokyo G4115
DIC株式会社と公益財団法人国際文化会館は、DICの今後のアートに関わる活動方針や、新設される「ロスコ・ルーム」のデザイン構想などを発表した。
2025年3月に千葉県佐倉市での運営を終了したDIC川村記念美術館。同月、DIC株式会社と公益財団法人国際文化会館は、アート・建築分野を起点とする協業に合意したことを発表し、同館が所蔵する戦後アメリカ美術を中心とする20世紀美術品のコレクションを中核に東京・六本木の国際文化会館へと移転すること、またコレクションを代表するマーク・ロスコの「シーグラム壁画」全7点を国際文化会館が建設する新西館へと移設し、建築ユニットSANAAが設計する常設展示室「ロスコ・ルーム」が開設されることが明らかになっていた。
SANAAの設計による新西館は2030年の完成を予定しており、「自然と建築の融合」「歴史の継承と新しい風景」「知的対話・文化交流を生み出す空間」をコンセプトに、既存の本館の左右に庭園棟とエントランス棟というふたつの建物を増築。DICと国際文化会館によって共同運営される新たな「ロスコ・ルーム」は、エントランス棟の地下フロアに建設される展示室内に作られる。

「ロスコ・ルーム」のデザインコンセプトは「庭園から連続するアプローチ」と「展示室の中で独立した空間」。来場者は、新設される庭園に囲まれたエントランスホールから建物へと入り、自然光の落ちる地下のメディテーションスペースを抜けて「ロスコ・ルーム」にアプローチする。
「ロスコ・ルーム」は来場者に象徴的な体験をもたらす場を目指し、「シーグラム壁画」に囲まれて絵画に包み込まれるような展示空間を計画。またエントランス庭園には小さなガラスパビリオンの建設も計画されており、「ロスコ・ルーム」を訪れる人々がその体験の前後で時間を過ごしたり、対話したりすることのできる場を想定しているという。

SANAAの妹島和世は「西館建設計画における親自然空間体験と、『ロスコ・ルーム』の単独的な空間体験のふたつを両立させ、ひと続きの体験となる構成を目指します」と語った。

さらにDICと国際文化会館は「ロスコ・ルーム」の共同運営にあたり、アメリカ・テキサス州ヒューストンにある「ロスコ・チャペル」と新たなパートナーシップを締結。
1971年に設立されたロスコ・チャペルは、無宗派の礼拝堂で、ロスコが晩年に制作した14点の壁画が恒久設置されている。DICは同施設が2024年7月のハリケーンで被災したことを受けて、美術品修復支援における戦略的パートナーシップを締結し、修復に必要な材料の提供など、化学メーカーとしての知見と技術を活かした支援を行なう。
いっぽうの国際文化会館はロスコ・チャペルと連携して「平和を促進するための民間外交」を展開する。諮問機関を共同設立し、様々なプログラムの企画運営を行うとともに、世界各地の組織の連携も広げていく。
またDICはロスコ・チャペルとの連携を起点として、化学メーカーの立場から美術品修復に関する支援活動を本格化。修復支援活動を継続的に行うための組織「IACC(Institute of Art Conservation Chemistry)」を立ち上げる。
同組織のもとでDICの技術専門性を持ったスタッフを社内で集め、調査や分析などの研究活動をスタートさせるほか、調査・分析・開発・施工などの取り組みを通じて、文化資産の保護と新たな価値創造に挑み、社会貢献と企業価値向上の両立を目指す。修復に関する専門家、美術館、企業、研究機関などの外部の関連団体とも連携していく予定だという。
DIC株式会社 社長執行役員 グループCEOの池田尚志はIACCの立ち上げについて、「まずは社会貢献活動の一環として開始することになるが、中長期的には当社の研究開発や事業展開にも貢献する組織にしていくのが私の強い思い」と意気込みを述べた。
DICは、国際文化会館への作品の移転にあたり、ロスコ作品に加えて、ジャクソン・ポロック、フランク・ステラ、サイ・トゥオンブリーなど、戦後アメリカ美術を中心とした20世紀美術の作品群と、それらと深く関連するヨーロッパや日本の美術作品など約100点を継続して所蔵する。
池田によれば、継続所蔵される作品は、20世紀のアメリカ美術を中核とするコレクションの一貫性を保つこと、そしてDICの経営ヴィジョン「Color & Comfort」を象徴するようなコレクションであること、との観点から選定された。
同社は2030年までの移設期間中もロスコ作品をはじめとする所蔵作品の鑑賞機会を国内外で設けるとし、美術館の休館に伴って休止していた他館への作品の貸出を7月より再開。国内では2027年1月以降、国外では同年5月以降に開催される美術展での公開を予定している。
また同社はこれまでに、保有する美術品384点のうち約280点を段階的に売却する方針を明らかにしており、昨年11月にはニューヨーク「クリスティーズ」にてクロード・モネ《睡蓮》やマルク・シャガールの《ダビデ王の夢》など8点が156億円で落札された。継続所蔵の対象外となった作品は今後も順次売却を進める。コレクション売却による収益の目安としていた100億円には届く見通しだという。
・ロスコ・チャペル プレジデント アブドラ・アンテプリのコメント
このパートナーシップは、貴重な文化資産を継承していく責任と、対話を通じて相互理解を育むという双方に共通する理念を体現する意義深いものです。マーク・ロスコのレガシーを守り伝えるとともに、思索と国際交流の新たな場を育んでいくにあたり、DIC および国際文化会館と協働できることを大変光栄に存じます。アートを媒介として人々の相互理解と静かな瞑想を促し、社会との世代を超えた永続的な絆を育む未来を見据えてまいります。・DIC株式会社 代表取締役 社長執行役員 グループCEO 池田尚志のコメント
この度、国際文化会館およびロスコ・チャペルとの協業を本格的に始動できたことを、大変嬉しく思います。私たちは、アートの保存・公開・継承を基本理念としつつ、アートを起点とした様々な社会的価値の創出を目指してまいります。美術品の修復支援組織「IACC」は、化学メーカーとしての専門性を結集し文化資産の保全に貢献するだけでなく、長期的視点から社会や文化の発展に寄与する新しい技術やソリューションを生み出す場として運営してまいります。移設期間中においても、所蔵作品の鑑賞機会を広げ、多くの皆様にご覧いただけるよう取り組むとともに、私たちの活動についてより知っていただけるよう努めてまいります。・公益財団法人国際文化会館 理事長 近藤正晃ジェームスのコメント
いま世界では、国際秩序が揺らぎ、戦争と対立が人々の未来に重く影を落としています。こうした時代だからこそ、世界のリーダーが集い、偉大な芸術を前に立ち止まり、心を静め、人として向き合い、対話を通じて相互理解を深め、平和の可能性を探る空間の重要性は、かつてないほど高まっています。日本の戦国時代、大名たちは茶室に集い、刀を外し、同じ器で茶を味わいながら、対話を通じて和平を模索しました。混迷の現代において、その役割を担うのがロスコ・チャペルとロスコ・ルームです。国際文化会館は、ロスコ・チャペルと連携し、現代の「茶道外交」を通じて、アートの力で平和と対話を育む取り組みを進めてまいります。