公開日:2025年10月17日

オスジェメオス×バリー・マッギー「One More展」(ワタリウム美術館)。30年の友情と創造の絆が生んだコラボレーション展が開幕

巨大壁画やレコードショップも登場。会期は10月17日〜2026年2月8日

「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景

世界初のコラボレーション展が開幕

オスジェメオス(OSGEMEOS)とバリー・マッギーの展覧会「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」が、10月17日からワタリウム美術館で開催される。会期は2026年2月8日まで。

1996年、サンフランシスコ生まれのバリー・マッギーは、1998年にサンフランシスコ近代美術館で巨大な壁画を発表して同館のコレクションに選定され、2001年にはヴェネチア・ビエンナーレで世界最大の壁画のインスタレーションを制作。世界中の美術館やアートスペースで個展を開催するいっぽう、「TWIST」というタグネームでグラフィティ・アーティストとしても活動し、ストリートやコミュニティへの視点に根差した作品の発表を続ける。

オスジェメオスは、1974年ブラジル・サンパウロ生まれの双子、グスタヴォ&オタヴィオ・パンドルフォ兄弟によるアーティストデュオ。ブラジルに上陸したばかりのヒップホップカルチャーと現代アートとの出会いを原点に、ダンスや音楽、壁画運動、ポップカルチャーなどの影響も受けて独自のスタイルを確立。壁画、絵画、インスタレーション、映像と、表現の幅は多岐にわたる。昨年から約1年間にわたって、ワシントンのハーシュホーン美術館で大規模個展を開催した。

本展はそんな国際的に活躍する2組による、世界初のコラボレーション展となる。

1993年、サンパウロでの出会いから続く深いつながり

両者の出会いは、マッギーがサンパウロでアーティスト・イン・レジデンスをしていた1993年に遡る。それ以来、30年以上にわたって両者は友情とクリエイティビティの絆を育んできた。

「私たちの人生において、バリーとの出会いは非常に意味の深い、大切なものでした」とオスジェメオスのふたりは語る。1990年代初頭、ブラジルの外のグラフィティアートの世界でどのようなことが起きているかを知らなかった彼らに新たな扉を開いてくれたのがマッギーなのだという。

「当時サンパウロでなかなか見出せなかった芸術の道、希望というものを彼が示してくれた。それが光となり、私たちはその門をくぐって、振り返ることなく前進してきました。バリーが私たちに提示してくれた機会がなければいまの私たちはいません」とグスタヴォはバリーへの感謝と敬意を口にする。「私たちとバリーの絆を言葉で説明するのは難しい。精神的な深いところでつながっている」とオタヴィオが続け、マッギーもこれに頷く。

左から、グスタヴォ・パンドルフォ(オスジェメオス)、バリー・マッギー、オタヴィオ・パンドルフォ(オスジェメオス)

即興演奏のように生み出された巨大壁画

2階の展示室では、3階まで続く吹き抜けの壁に描かれた大きな壁画が目に飛び込んでくる。巨大な人物像に、目のついた電車、ウルトラマン、宇宙人のような謎の生き物、壁にスプレーで落書きをする人物……オスジェメオスのふたりとマッギーによる遊び心溢れるカラフルなグラフィティが、壁面いっぱいに散りばめられている。

「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景

これは約10日間ほどかけて両者が即興演奏のセッションのようにコラボレーションしながら描き上げたものだ。中央の人物像はオスジェメオスが、その人物が抱えている顔をマッギーが描き、オスジェメオスのタギングの上にマッギーがドローイングを添える。互いの絵に反応し合いながら、作品は有機的に発展していった。

「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景

壁画の制作プロセスについてマッギーはこう語る。

「最初はチェスをプレイしているようでした。ひとつ駒を動かしたら、相手がまたひとつ駒を動かす、というように。それがどんどん発展してレスリングのようになっていき、最終的にこのような大きなものになったんです」。両者は90年代に出会った当時も夜通しともに絵を描くなどコラボレーションを楽しみ、今回はその頃を再現するようでもあったという。

さらに「私たちは同じ惑星から来ているので、こういうことをかたちにするのが簡単なんです」とオタヴィオ。グスタヴォは「自分の使命を果たすために努力している人は、どんな国、どんな惑星に住んでいても、かならずつながり合えて調和できるものだと思う。バリーにも自分たちにもそれぞれの惑星があるけれど、本質的には同じ。ともに何かをすることでそのつながりが強化され、また新たな人が入ってくるための門を開くことになるのです」と説明する。

音楽が流れるレコードショップが登場

同じフロアには、オスジェメオスたっての希望で実現したレコードショップのインスタレーションが出現。レコード棚にはオールドスクールなヒップホップから日本の歌謡曲まで幅広い作品が並んでいるが、これは彼らが本展のために来日してからフリーマーケットなどで入手したものなどで構成されている。

「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景

レコードを実際に買うことはできないが、会場に置かれたプレイヤーで自由に聴くことができる。壁にはオスジェメオスとマッギーの作品も展示され、音楽との結びつきや街のエネルギーとった彼らの原点を感じさせる空間が広がる。

「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景

このほか、マッギーの絵画やドローイング、オスジェメオスの壁画など、フロア全体を両者の作品が埋め尽くしている。

「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景
「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景
「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景

鏡張りのイマーシブなアニメーションルーム

3階は平面作品やブラウン管テレビを用いたビデオインスタレーションなどが展示され、主にマッギーの作品で構成される。また2階の壁画を別の角度から見ることもできる。

「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景
「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景

そして最後のフロアである4階にはオスジェメオスの新作であるアニメーションルームが登場した。

壁面を覆うLEDにオスジェメオスの作品が映し出され、鏡張りの天井と床によって無限に反射していく。彼らの無数の作品が無重力空間に解き放たれたように縦横無尽に飛び回り、平衡感覚を失わせるような没入体験を生み出している。

「オスジェメオス+バリー・マッギー One More展」会場風景

日本のアニメからも大きな影響を受けているというオスジェメオス。グスタヴォは「豊富なアニメ文化のある日本という国で、アニメーションをかたちにできていることに感慨深いものを感じています」と語った。

美術館の外にも広がる展示

さらに展示は美術館の外にも広がり、同館向かいの空き地のスペースには、2組のコラボレーションで作られた壁画が展示されている。10月16日に行われた内覧会の前日夜に制作されたというこちらの作品も、館内の壁画と同じように両者の化学反応のなかから生み出されたものだ。

美術館外の壁画

また、地下ではマッギーの新しい版画作品や、本展の制作風景をとらえた映像を見ることができる。

本展のプロセスについて「今回は何も持ってきていない感覚でプロジェクトを一緒にやっているということが重要でした。空の状態からその場でかたち作り、思いがけない発見や驚きがあるというのが、通常数年がかりで準備される美術館のプロジェクトとは違って新しい」とマッギー。

オタヴィオは「ブラジルから来た自分たちは即興的なことや、わずかなものから何かを生むということに馴染みがある。今回も状況にあわせて柔軟に対応していくことも多く求められ、互いの感覚や考え方の違いを調整していく必要もあったけれども、そういあった調整も自然に進められました。毎回バリーとともに過ごすときは彼から多くのことを学ぶ。いまでもそれは変わりません」と振り返った。

オスジェメオスとバリー・マッギーの家族のような深いつながりから生まれた本展。壁画や絵画、ドローイング、絵画、映像、インスタレーションなど、美術館内を満たす両者の創造のエネルギーを、会場で体感してほしい。

後藤美波(編集部)

後藤美波(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。