公開日:2026年4月13日

レイチェル・ホワイトリードが語る。パブリック・アートのあり方と変わりゆく都市へのまなざし(聞き手:齋木優城)

アーティゾン美術館とともに屋外彫刻作品を制作したレイチェル・ホワイトリード。「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」(国立新美術館)にも出品中のイギリスを代表する現代アーティストにインタビュー(撮影:廣田達也)

レイチェル・ホワイトリード

レイチェル・ホワイトリード(Dame Rachel Whiteread DBE, 1963〜)は、1990年代に「YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」と呼ばれたアーティストのひとりであり、1993年にターナー賞を受賞。世界各地の美術館での個展のほか、サイトスペシフィックな彫刻作品でも知られる現代芸術家である。昨年夏にアーティゾン美術館のプロジェクトとして、東京・京橋のミュージアムタワー京橋とTODA BUILDINGのあいだに位置する新作インスタレーション《Artizon Conversations》が公開されるなど、日本においても重要な活動を行っている。

今回は、来日中のホワイトリードにインタビューを行い、その作品に象徴的な「ネガティブ・スペース」の成り立ちから90年代のロンドンにおけるコミュニティ、《Artizon Conversations》や「テート美術館 – YBA & BEYOND 世界を変えた90s 英国アート」の出品作、そして最新の展覧会にいたるまで、自身の活動について語ってもらった。

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空気をミイラ化する。「ネガティブ・スペース」への関心はどう生まれた?

── あなたの作品は「ネガティブ・スペース」(物体と物体のあいだに存在する空間)をキャスティング(型取り)し、彫刻的なかたちを与えることが特徴的です。まずは、「ネガティブ・スペース」に焦点を当てて制作を始めた背景について、詳しく教えていただけますか?

1980年代にホワイトチャペル・ギャラリーで開催されていたブルース・ナウマンの展覧会に行ったんです。私はまだ駆け出しのアーティストだったので、本当の意味で作品を理解していたわけではなかったかもしれませんが、ナウマンの作品、そして展覧会における体験そのものに魅了されました。その展覧会で見た作品のなかに、椅子の下の空間をかたちにしたような作品があり、私はそれに強く興味をそそられました。

それから、私は美術学校では最初は絵画を、その後に彫刻をあわせて6年間学び、卒業後に自分のスタジオを持ちました。アーティストとして自分なりの表現を模索し始めたとき、まず最初に取り組もうと思ったのが、自分の子供時代の記憶でした。子供の頃、実家にあった衣装だんすの中に入って座っていたことがあったのですが、あのときのあの感覚を実体化したい、と思ったんです。私の母は服を仕立てており、たんすの中にはいつもたくさんの布地がありました。私には双子の妹がいて、いつもふざけて家族から逃げ、衣装だんすに隠れていたのです。その記憶は、私の心の中にとても鮮明に残っていました。たんすの中で感じたその空間の黒さ、暗闇、そして匂い。これをどうにかしてかたちにしたかったんです。そこで、私は似たような衣装だんすを買ってきてその内部を型取りし、表面を黒いフェルトで覆って、濃密な黒い塊のような作品に仕上げました。これが、私が最初に作ったキャスティング作品だと言えると思います。

レイチェル・ホワイトリード

ただ、思い返してみればそれより前、大学の最初の年にキャスティングの授業を受けたこともありました。そこで取り組んでいたのが砂型鋳造(sand casting)です。その授業では砂の中にスプーンを押し込み、そこへ溶けた金属を流し込むことで、窪んだ空間を鋳造しました。すると、そこにはもはや「スプーンらしさ(spoon-ness)」がすっかりなくなってしまいました。これがとても印象的で、合点がいったような気がしたのです。

こうして、いくつかの経験が結びつき始めました。対象に極めて微細な変化を加えることで、その物体を世界に再提示できるのではないかと考えたのです。それは、いわば「空気をミイラ化する(mummifying the air)」ような、あるいは「空気を固形化する(solidifying the air)」ような手法によって、確固たる立体作品を作り出すという試みでした。

レイチェル・ホワイトリード Artizon Conversations 2025 石橋財団アーティゾン美術館©Rachel Whiteread
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