「TERRADA ART AWARD 2025」のファイナリスト展が東京・寺田倉庫で開幕。注目作家の黒田大スケ、小林勇輝、是恒さくら、谷中佑輔、藤田クレアが新作を発表

新進アーティストの支援を目的に、2年に1度ファイナリストを選出する現代アートアウォード「TERRADA ART AWARD」。1月16日~2月1日開催のファイナリスト展に先駆け、15日にはファイナリスト5組に各審査員賞が贈られた

「TERRADA ART AWARD 2025」授賞式にて、左から、黒田大スケ、小林勇輝、是恒さくら、谷中佑輔、藤田クレア Photo by Takanori Tsukiji

新進アーティストを支援する現代アートアウォード

新進アーティストの支援を目的としたアウォードとして注目を集める「TERRADA ART AWARD」。2年に1度行われ、2025年は国内外から集まった多数の応募から、5組のファイナリストが9月に決定していた。

「TERRADA ART AWARD 2025」会場風景 Photo by Keizo KIOKU

選ばれたのは、黒田大スケ小林勇輝是恒さくら谷中佑輔藤田クレア。ファイナリストに贈られる賞は、各々に制作費として「300万円」、また「TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト展」での作品発表の機会だ。5名は最終審査において提出した展示プランにもとづき、制作費を活用しながら約3ヶ月をかけて作品を制作。東京・天王洲にある寺田倉庫 G3-6Fを舞台とする「ファイナリスト展」にて、未発表の新作を含む作品を展示する。会期は1月16日〜2月1日。入場無料。

「TERRADA ART AWARD 2025」会場風景 Photo by Keizo KIOKU

なお、副賞として、「ルイナール ブラン・ド・ブラン」、寺田倉庫が運営する画材ラボ「PIGMENT TOKYO」の商品10万円分、同社の美術品保管サービス2年間の無料利⽤、同社デジタルストレージサービス 3年間の無料利用、受賞後の次回作の制作・発表に関するリサーチ費(最大30万円分)の支援が提供される。新作発表の機会に加え、このような作家活動を支える費用を援助する点も、本アウォードの特徴だ。

今回、最終審査員を務めたのは金島隆弘(金沢美術工芸大学 芸術学専攻 SCAPe 准教授)、神谷幸江(国立新美術館学芸課長)、寺瀬由紀(アートインテリジェンスグローバル ファウンダー)、真鍋大度(アーティスト、プログラマ、コンポーザ)、鷲田めるろ(金沢21世紀美術館館長、東京藝術大学准教授)の5名。

*最終審査員の総評はこちらの記事

ファイナリスト展開幕に先駆け、15日には授賞式が行われ、最終審査員からファイナリストへ「各審査員賞」が授与された。ここでは内覧会の様子とともに、各作家や最終審査員のコメントをお届けしたい。

「TERRADA ART AWARD 2025」会場風景 Photo by Keizo KIOKU

各ファイナリストの作品とコメント

谷中佑輔(金島隆弘賞)

谷中佑輔(1988年大阪府生まれ)は、展覧会や舞台公演を横断しながら、身体の脆弱性についての作品を発表してきた。

谷中佑輔の展示風景 Photo by Keizo KIOKU

審査員の金島は、「審査のために提出されたプランを見て、どういう作品になるのかもっともイメージしづらかった」と語りつつ、だからこそ作家が探ろうとしている世界観への興味を掻き立てられたという。

本展では5つの作品を発表。中央に吊られた新作《迷走の作法》(2025)は、「複数人の参加によって演奏が成立する“楽器”であり、同時に“彫刻”でもあり、“インタラクティブ作品”でもあるという、複層的な構成」を持つ作品だと谷中。3人が揃うと楽器として奏でることができ、その音は「日本の笙(しょう)と、同じような形態を持つ中国やタイなどアジアに点在する伝統的な楽器をもとにした」という。10年ほどヨーロッパに住んでいる作家が自分のアイデンティティを考えるうえで、ひとつの国に縛られないより広範な連帯の可能性を探求したいという思いから、こうしたかたちになったという。

谷中佑輔《迷走の作法》(2025) Photo by Keizo KIOKU

このほかに、iPS細胞と受精卵から着想を得た作品や、東洋医学における身体と時間の関わりをダイアグラムにした作品を発表。「身体を科学の実証性や生産性の枠組みだけで捉えることに疑問を抱いている。同時に身体の可能性にワクワクしたい」という、作家の世界観が体現された展示になっていた。

谷中佑輔の展示風景 Photo by Keizo KIOKU

藤田クレア(真鍋大度賞)

藤田クレア(1991年中国北京市生まれ)は、動力的な装置と自然由来の素材を組み合わせ、社会構造や人間関係のなかで直面する問題や葛藤を出発点に作品を制作する。

藤田クレアの展示風景 Photo by Keizo KIOKU

今回は、植物にフォーカスし、光や温度、風などに敏感に反応し、周囲と絶えずやり取りを続ける在り方から着想した作品を発表。《Reaction ~ver. Dionaea muscipula~》(2025)はハエトリソウを用いた作品で、ハエトリソウが口を閉じるとその信号がレコードプレイヤーへと送られ音が鳴る仕組みだ。「ハエトリソウは本来、捕食行為として口を閉じるわけですが、今回はそれを一方的な人間のエゴによって反応させ続け、音楽を楽しむようになっています」(藤田)。

藤田クレア《Reaction ~ver. Dionaea muscipula~》(2025) Photo by Keizo KIOKU

また、ユリの花をそれぞれ雌しべのみ、雄しべのみの状態にした状態で、機械的にそれを接触させて受粉させる《Auto-Pollination》(2025)は、「ライン工場のように受粉し続けるユリは、選択も合意もできないまま、外からの与えられた条件のなかで(他者と)関係を作り続けている」と作家。こうした作品は、「タイパ・コスパ」が何より重視される社会における、他者やモノとの関係性を寓意的に表現する。マッチングアプリでの出会い、カーシェアリングなど、便利ないっぽうで、かけるべき時間やコミュニケーション、愛情など、何かが損なわれているのではないかと感じてしまうことも多いシステムについて思い起こさせる。

藤田クレア《Auto-Pollination》(2025) Photo by Keizo KIOKU

審査員の真鍋は、「速度が正義になった世界で、本作は『時間を省けないもの』が確かに存在すると示す。急ぐほど見落とすものが増えるという事実を体験として手渡し、鑑賞者の注意の速度そのものを作り替える」と評価した。

是恒さくら(神谷幸江賞)

アラスカ大学で学んだ経験を持つ是恒さくら(1986年広島県生まれ)は、国内外各地の鯨類と人の関わりや海のフォークロアをフィールドワークを通して探り、リトルプレスや刺繍作品として発表してきた。

是恒さくらの展示風景 Photo by Isao Negishi

今回は10年前に始めた旧作と新作を合わせた展示を発表。捕鯨で獲られた鯨に由来する素材から着想し、空想の玩具を作った。かつて鯨からとられた素材は多様な道具の材料となったが、現在では必要とされなくなり、現代の生活から姿を消しつつある。作家はフィールドワークを通して、鯨と関わって生きてきた人々の話を聞きながら、こうした素材を受け取ることもあったという。こうした人と鯨、自然との関わりを忘れないよう、作品を通して、素材とその加工の技術を共に残す道を模索する。

是恒さくら《空想玩具》(2015-25) Photo by Isao Negishi

「現在でも鯨が日本列島に漂着することはあり、これからも起こり続けます。昔は油を取ったり、肉を食べることもあったが、現在ではそういうことは失われ、鯨をどう処分していいかわからなくて困ってしまう状況がある。漂着した浜辺にずっとあった鯨と人の関わりを私たちは忘れてしまうけど、それを忘れないようにおもちゃというかたちでその関わりを残していこうと考えました」(是恒)

審査員の神谷は「各地に残る、時には消えゆく物語や道具や技術を、表現という創造力を駆使して、共有し、記憶し、伝える術を、作品を通じて形にしようとする。それは私たちを取り巻く環境の未来を想像する力も期待させてくれる」と評した。

是恒さくら《空想玩具》(2015-25) Photo by Isao Negishi

黒田大スケ(寺瀬由紀賞)

黒田大スケ(1982年京都府⽣まれ)は彫刻の制作を学んだのち、彫刻に関するリサーチをもとに、近代以降の彫刻家を自ら演じる映像作品を制作する。

黒田大スケの展示風景 Photo by Keizo KIOKU

今回主要なモチーフに選んだのはブランクーシ。戦後直後の日本の彫刻の抽象表現の黎明期において、ブランクーシは多くの彫刻家に参照され、議論を生み出した。《鳥の空間》(2025)ではブランクーシの代表作である《空間の鳥》の解釈をめぐる、彫刻家たちによる話し合いを作家が演じた。

「自分なりの彫刻に対する疑念をもとに、リサーチを重ねたうえで、台本は書かず即興的に演じている」(黒田)という映像では、彫刻家をめぐる様々な言葉が、やや脱力気味のユーモラスを伴って交わされていく。

黒田大スケの展示風景 Photo by Keizo KIOKU

審査員の寺瀬は「ともすれば歴史に埋もれ、社会から忘れ去られてしまいそうな過去の存在を、丹念なリサーチとフィールドワークを通じて蘇らせる。鑑賞者に美術的な知識を強要せずとも巧みなナラティブで引き込む力を持ちながら、確かな歴史的事実に基づいたノンフィクショナルなコミカルフィクションという独自の語り口を確立している」と評価。また、「抽象彫刻が出てきた時代の空気、見えない圧力やプレッシャーに満ちていた感じには、どこか現代と通じるものがあるのではないか」と語った。

「一連の作品は、『“彫刻”とは何か?』 という彫刻家であれば誰でも一度は向き合う問いに対する私なりの一つの答えともなっています」(黒田)。

黒田大スケ《彫刻家のテーブル》(2025) Photo by Keizo KIOKU

小林勇輝(鷲田めるろ賞)

小林勇輝(1990年東京都生まれ)は、パフォーマンス・プラットフォーム 「Stilllive」を設立し、人間の存在意義を探るパフォーマンス作品を発表してきた。

小林勇輝の展示風景 Photo by Keizo KIOKU

今回は、少林寺の僧侶・拳法家であった女性によって創始された中国南部武術「詠春拳」を起点とした学際的パフォーマンス作品「詠春拳プロジェクト」(2019〜)を発表。2019年以降、香港・中国・日本で鍛錬やリサーチ、交流を重ねてきたオンゴーイングなプロジェクトだ。詠春拳についてリサーチを重ねるなかで、この武術が中国から香港へと伝わった歴史的経緯を追い、そこには東アジアにおける戦争や植民地支配の歴史が関わっていたことを知ったという。

小林勇輝の展示風景 Photo by Keizo KIOKU

審査員の鷲田は、「武術は一般的に男性性と結びつきやすい。しかし、女性によって創始されたと言われる詠春拳を身体的に学んで参照し、クィアの視点から、武術を男性性から解放し、身体的なコミュニケーションの術として再解釈を試みている」と評価。また、「異文化や歴史を題材としたリサーチ型の作品は、しばしば(その対象の)“つまみ食い”になってしまうこともありますが、小林さんは実際に6年ほどアジア各地で武術に真剣に取り組まれ、作品制作につなげられた。そのことにも非常に好感を持ちました」と語った。

本作において、現代社会における戦いと自己防衛の意味を模索しているという小林。「戦いや戦争という言葉を非常に多く耳にする現在において、なぜ武術を学ぶのか。そのことでどのように“戦い”に対する定義を再可視化することができるのかということを意識しながら、これからも研究していきたいと思います」と抱負を述べた。

小林勇輝の展示風景 Photo by Keizo KIOKU

今回のファイナリスト展を見て、それぞれ個性の際立つアーティストのプレゼンテーションのなかに、いくつかの共通点を見てとることができた。たとえば近代以降に編まれた国家主体の歴史観への疑問や、国境をはじめとする様々な境界と分断への問題意識、高度にシステム化された現代社会を生きる一人ひとりの身体の脆弱性と可能性へのまなざし、動物や植物、モノといったノンヒューマンの存在を介した世界のネットワーク、などである。こうした視点や問題意識は、同時代を生きる鑑賞者にとっても、身近に感じられる部分があるのではないだろうか。

「TERRADA ART AWARD 2025」授賞式にて、前列左から、黒田大スケ、小林勇輝、是恒さくら、谷中佑輔、藤田クレア、後列左から、寺瀬由紀、鷲田めるろ、神谷幸江、金島隆弘、真鍋大度 Photo by Takanori Tsukiji

いまではすっかり「現代アートの街」としてお馴染みになった天王洲。その中心的役割を担い、インフラを支える寺田倉庫が注力する本アウォードは、アーティストのキャリアアップに重要な役割を果たすと同時に、アートファンにとっても気鋭のアーティストの現在地と出会う絶好の場を提供していると言えるだろう。「TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト展」は入場無料。

同社が運営するWHAT CAFEではファイナリスト展の開催にあわせ、1月25日まで「WHAT CAFE EXHIBITION vol.44 From here to eternity:TERRADA ART AWARD 2015 受賞者の『いま』の展開」を開催。「TERRADA ART AWARD 2015」で受賞・入選したアーティスト15名の作品を展示・販売し、受賞後のキャリアを通して見せた表現の発展や継続的な深化を紹介する。さらに寺田倉庫G1ビルでは3月15日まで「NAKED meets ガウディ展」が、3月1日まではWHAT MUSEUMで諏訪敦の大規模個展「諏訪敦|きみはうつくしい」も開催されているので、近隣のギャラリー巡りと合わせてぜひ足を運んでみてほしい。

「WHAT CAFE EXHIBITION vol.44 From here to eternity: TERRADA ART AWARD 2015 受賞者の『いま』の展開」会場風景 撮影:編集部

福島夏子(Tokyo Art Beat編集長)

「Tokyo Art Beat」編集長

福島夏子(Tokyo Art Beat編集長)

「Tokyo Art Beat」編集長

『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。